Posted 21 Nov, 2019

Suzuki Hustler

image

後席の空間は、セオリー通りヒップポイントを前席よりもおそらく20mmほど上げていて、膝から下の収まりも素直、そのまま比較的アップライトな姿勢で座るのがちょうど良い。シートバックをリクライニングさせると座面も後方を少しずつ下げていく動きを作る連動リンクを組み込んであり、これはこれでグッドアイデアだが、現状では、そのリクライニングをいったんフルに前に倒して戻し、最初にロックするポイント、つまりリクライニングが最も立った姿勢か、そこから1ノッチ、リクラインさせたポジションまでが、この“良い”着座姿勢に収まる許容範囲。シートバックをそれ以上倒して座ることは、筋肉に加わる無駄な負荷、すなわち疲労と、安全性の両面でお勧めしない。この座り方ならば、シートバックの高さも比較的あり、座面クッションの長さもあるので、軽乗用車のリアシートとしては居住性が良い方。シートスライドもかなり長いが、その中央位置より後ろではシートベルトの肩へのかかりが浅くなるので、スライド量の中央か若干前寄りで使うことをお勧めする。それでも膝の前の空間は十分にある。ちなみにその状態でもフットスペースはフィット(前席シート下に燃料タンクを収めているので、後席乗員の足先の前に壁がある)よりも大きい。一方、この状態で後席シートバックの後方、バックドア内面までの距離は40cmほどになるので、後面衝突の安全性を考えても、スライド位置をこれよりも後ろにすると、いざという時のクラッシュストロークがミニマム以下になる。これも最近の軽ワゴン系に共通だが。

ちなみにもはや常識ではあるけれども、リアシート左右の座面直後にISO-FIXが組み込まれている。チャイルドシートの上端を後方に引くテザーアンカーの位置は、もっと遠く、高くすることが望ましいが、軽の寸法枠の中でその寸度を確保するのは難しい。

まとめに替えて

というわけで、今日の日本限定・軽自動車の寸法枠からすれば、また日本の実用速度域上限100km/h前後までであればと、空間レイアウト、居住性など素性は悪くない。だからこそ今日の軽乗用車商品の中核として、骨格からきちんと組み立て、クルマ本来の安全に走る機能を織り込み、パワーパッケージからシャシー・レイアウト、ステアリングからダンパーまできっちりと作り込めば、それなりのワールドスタンダードに近づくスモール・ユーティリティカーになり得る。その可能性が見えるだけに、現状ではきわめてもったいない。

前方で少し良い資質の可能性を垣間見せたのに、作り手側自身がその「良さ」を理解できないまま、「日本の軽」というごく狭い自動車世界の好ましからざる潮流の中に埋もれる形になってしまった。

けして「良い」とは言えない素性の現行“ライバル”(なんていない、はずなのだが)商品をベンチマークにして横比較に終始すると、自社の(あるいは他社であっても)製品が持つ良い資質、あるべき特質・特性を見失ってしまう。そして、改良や進化には向かわず、今あるところで堂々巡りするだけになる。この新型ハスラーからは、まさにそうした今日の日本のクルマづくりの迷走状態が透けて見えてくるように思う。スズキとしてはやむをえないところでもあるが、クルマづくりにおいて「絶対値」、すなわち「自分たちはこういうクルマを作ろう」というイメージが見えてこない。ただし、ジムニーを除く。これは他に真似すべきものが無いからではある。ということは、「スズキの軽」は、とりあえずジムニーをベンチマークにする、というアプローチもありそうだ。とくにハスラーは、ジムニーをベースに乗用車指向のキャビンを組む、というSUV本来のスタイルで造ったほうが、良いモノ、訴求力の高いモノが生まれそうに思う。ジムニーの味見でも、ワイド仕様・普通車枠のジムニー・シエラについては要改善、かつホイールベースを延ばした5ドアSUV仕様を提案したが、ジムニー/シエラとハスラー/クロスビーをエンジニアリング面では統合する、という戦略がありうる。もともと「SUV」はそうやって生まれたジャンルなのだし、ランドローバー/レンジローバーやジープ系などの歴史を振り返っても、そうした中から、製品としてもオーナーとの付き合いにおいてもロングライフを保つ名品が生まれているのだから。

※今回の試乗車両の装着タイヤは、DL ENASAVE EC300+

路面凹凸衝撃がトレッド周方向に回りやすい。
CP立ち上がりが遅れ気味なのに、その先スリップアングルがついたところでは舵角を増してもCF増加が鈍い。SA増加に対してSATの変化も少ない感触。
都市内の細かい移動の繰り返しと都市高速を合わせて55km走行。メーター内の表示燃費は16.9km/L

この車両は、ADAS(運転支援システム)なし。前方カメラによる緊急ブレーキ、車線逸脱警告などは備えている。

WORD : 両角岳彦