Posted 4 Jun, 2020

Daihatsu Tant

フットワーク

ステアリングは中立周辺、動き出しから低速域にかけての大事なところから、「これはいったい何?」と思わせる妙に重い回転に対する抵抗がずっとつきまとう。モーターの回転力が加わっても、このステアリング軸・回転方向に存在する重さは消えない。車両実験などの評価の中では「フリクション」と表現されてしまう可能性が高いが、手に伝わる感触としては「摩擦」とは違う。回ろうとする動きを何かが邪魔する「抵抗感」とでも言うしかない感触であって、これまであまり体験したことがない。そこにねじり方向のばね反力感が加わるので、タイヤまでものごとがつながっている感触がきわめて薄い、と言うよりもほとんどない。ステアリングギアボックス(例によって明石機械工業の製品か?)の感触に集中すると、歯がきれいに噛み合いつつその接触面が滑る感触の精度感が低く、動きにつれて噛む感触が浅くなったり深く重く噛み込む感じになったり変動する。しかし前述の「重さ」はそこから来るものではないのが感じ取れる。このわずかな回転初期手ごたえの中に弾性変形や粘りの感触がほとんどないのと同時に、手に近いところにある「回転阻害要素」なのもわかるので、可能性としてはアシストモーターの減速ギアとステアリング軸の噛み合い部分かと思われる。ここの金属ピニオンのごく薄い歯がプラスチック製平歯車に食い込む構造になっているので、その食い込みでステアリング系全体のガタや精度不足を補償しようという製造精度設定をしているのかもしれない。と、手の感触からいろいろなことを思い描く。

image

30km/hを越えるあたりから、今度はモーターがスッと回りたがらないことによる中立付近の固着感が強く現れる。据え切り~低速域を外れたら、トーションバー・センサーの検出値に対してモーターのアシストトルク(正確には投入する電流値)を弱めるのがEPS制御の”定番”になっているのだが、そうすることでステアリングコラムからギアボックス、さらにタイロッドに至る機械要素全体の精度の低さとフリクションや変形、動作の硬さがそのまま現れている可能性もあるし、同時にモーター本体とリダクションギアが回転を阻害する要素としてより明確に現れたり、ということもあるが、手ごたえからすると、中立から舵が動き始めようとした時に、そのステアリングトルクと逆方向に(動きを動きを止める方向の)電流を加えている可能性が高い。さらに70km/hを越える、このクルマとしては「高速」領域となる速度域(それ以上速度を上げるのは心理的に抵抗が急増する)においては、ステアリングを中立にひたすら固着させることで日本的走行評価における「直進性」、すなわちテストコースで「何もしなくても”まっすぐ”走っている」状態、操舵修正頻度が減るのが良いとする方向に仕立てようとしたことが伝わってくる。実路で精確にライントレースしようと運転してみればすぐわかるように、「中立固着」はけして「まっすぐ素直に走る」ことではない。かつて、ダイハツの実験部隊のレベルはこんなに低くなかったのだが、その伝承も失われた、ということなのだろうか。

ある程度速度が乗ってきたところで、ということは、このクルマの使われ方としては50~60km/h程度、あるいはもう少し上の速度域で、ステアリングを軽く左右に振ると転舵周波数0.5Hz、横Gが0.15G程度の何気ない動きで早くも、リアのロール方向への収まりが悪く、そこからヨーイングが発散系になる気配が現れる。とてもそれ以上の挙動を確かめる気持ちにはなれない。このロール+ヨーの動きが基本的に発散系となっている運動特性は、まさにホンダN-BOXと共通する。けして好ましいとはいえない既存例をなぜ追いかけるのか? 理解不能と言わざるを得ない。しかもホンダの軽群はこの運動能力をトレードオフとして、低速域で路面凹凸の当たりを極端に丸めているのだが、このクルマは既述のように、そこはゴツゴツ、ガタガタしている。

都市高速、高速道路でのライントレースも、前述のステリングの固着、そして転がるタイヤが起こす細かな振れ、ふらつきによって非常に難しいし、その先に前述の発散系の挙動が見え隠れするので(それは直感的にほぼ誰でもわかる。その感覚を無視して強引に走る運転者はいるけれど)、ドライバーにはプレッシャーかかる。

このクルマのオーナー、そしてドライバーとなる人々のドライビングのレベル、クルマに対する意識などを考えると、このレベルの運動能力しかない、かつドライバーとの対話性の低いクルマを提供することに大きな疑問を感じる。これは最近の「日本の軽」に共通する問題ではあるが、このタントはとくにその不安が大きい1車ではあった。

幅が決められている軽の枠中で背を極端に高くすると、ちゃんと走るクルマにまとめ上げるのが難しい。それは力学の原理原則なのであって、そこをどうまとめるかに設計者も、試験担当者も苦労する。そこにマジメに取り組み、一応の成果を得ているという面では、同じダイハツの中でも少し前に出たウェイクのほうが格段にまともだった。こちらが私の知る「ダイハツ流」に近い、と感じたものである。

ドライビング支援システム

日本市場の最近動向に沿って、タントにもドライバー支援システムが準備されている。今回の試乗車両はアダプティブ・クルーズコントロールとレーンキープ・アシストを装備しているが、その仕上がりは現状の軽乗用車がどれも同じようなところに止まっているレベルであって、とてもまだ一般ユーザーがある程度信頼を置いて付き合えるものにはなっていない。

image

ACCを作動させると、まず速度到達~保持という基本機能自体がきわめて甘い。なかなか目標速度に到達しないし、そこでの変動幅も大きい。車間保持も何を基準に間隔を保持し、速度をコントロールしているのかが見えてこないくらい曖昧。車間設定を最短にしても、ちょっとした速度変化でみるみる前車との空間が開いていき、こちらは加速しない。一定間隔に近い状況でも妙なタイミングでブレーキをかける。前方車両との距離の読み方、合わせ込み、車間距離維持のアルゴリズムなどがまとまっていないことがあっさりわかってしまう。さらにちょっとしたカープでも隣の車線を走る車両、とくにパネルトラックの、それも小中型サイズあたりでも検出して前走車両と判定、ブレーキをかけたりする。

レーンキープ・アシストは、車両の瞬間進路とレーンマークの交差が浅い角度でも、触れそうになると警告を繰り返す。そこで操舵介入してくるのかと思えば放置している。ところが変なタイミングで急にパキッと操舵を加えることもあった。レーン内にクルマの位置を保持する機能があるはずだが、それが役に立つような60km/hかそれ以上の速度域では、直進近傍でもクルマそのものが常にフラフラ、バタバタと落ち着かない運動を続けているため、システムによる軌跡保持どころではない。

image

社会の雰囲気、市場要求で、軽といえどもこうした運転介入システムを付けなくてはならなくなった。もちろんそれは「安価なクルマ(今の軽乗用車はけしてそうは言えないが)であってもユーザーの判断で選べるものでありたい。もとよりこうしたシステムは今、サプライヤーが提供する。その中からどれを選ぶか、それはなぜか、から始まって、軽なればこそ「日本の道」に合わせるにはどうしたらいいかを考え、その基本思想に沿ってそれぞれの車両特性に合わせてチューニングする。サプライヤー側で用意するのは共通のハードウェアと基本となる判断・制御の内容なのであって、実車に実装するとなれば、そこからもう一段、二段の「合わせ込み」が欠かせない。それは燃料噴射や変速機、ダンパーなどと同じことだ。しかしこのダイハツだけでなく軽自動車の現状は、サプライヤーが提供してくるものをほぼそのまま組み込んだだけ、いや、サプライヤーによっては「ポン付け」してももう少しふつうに働くものもあるのではないか、そう思えるような状態のものばかり。もちろん、これまでと同じような商品開発のプロセスと並行して、車両開発よりもむしろ「手がかかる」、これだけ複雑なシステムをまとめるとなると、そこに必要な人材も工数も足りない、というそれぞれの「お家の事情」はわかるけれども、しかし商品として世に出す以上はそれなりの仕上げをしておかないと、と理念としては思ってしまう。

246.6km 給油15.2L 試乗開始前の満タン状態不明
車両側平均燃費表示 16.8km/L