Posted 4 Jun, 2020

Daihatsu Tant

次はドライバーズ・シート。一見、ソフトなように感じるが、実際には幅が足りず、加えて骨盤の重要なポイントを押さえていない。座面側は座骨の支持が弱く何となく全体で受け、シートバック下端部は骨盤背面の大臀筋の膨らみを脇から押さえる形状になっている。お尻を両側から挟み付けるように押してくるのでけっこう違和感が強い。普通の人だと、お尻を前にずらしてこの圧迫を逃げる、すなわち着座姿勢が崩れがちになるだろう。骨盤が動く女性だとどうなるだろうか。女性ユーザー/ドライバーの比率が高い軽乗用車の場合、シートづくりにもそうした評価と生体機能に基づく論理的な整理が必要だと思われる。そもそも空間の中で着座位置が低い中で、さらに尻を前にずらして崩れた姿勢に収まる、というシートは好ましくない。

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軽の商品企画において、シートを改善しようという取り組みは、ちょうど初代タントの時期にダイハツの商企・製企陣が大きなテーマのひとつとして取り組み、スズキも追従して行った、という経緯がある。ここでも、組織としての記憶、継承は断絶した、ということだろうか。

ルームミラーは、フロントウィンドゥ上ではなく天井側にマウントしたことで、ドライバーにとってはかなり後方寄りに位置することになっている。高さも上すぎて視線移動角度が大きく、瞬間的に視認しにくい。シトロエンの先代ピカソのような凝った取り付け方は望まないにしても、このクルマの車体・天井の造形から見れば、20cmは前に取り付けられるはずで、なぜここで良しとしたのか、疑問。少なくとも立体視野評価を行えば、これではNGとされうる位置と見え方ではないかと思うのだが。

第一印象~パワーパッケージ

クルマを受け取って動き出し、ものの何kmかで…。走りまで、ホンダの軽、とりわけN-BOXをベンチマークにしなくてもいいと思うのだが、と言うよりも、あれはベンチマークにすべきではない、と捉えていないのだろうか? そういう思いが浮かんできた。

とにかくふにゃふにゃ、ふらふらとタイヤの位置決めが甘く、正確さに欠けるタイヤの転がり方、車体の動きに終始する。

車体各部を触ってみると、外装鋼板から内装パネル支持面に至るまですべて板厚が薄く簡単に凹む。軽量化という命題はよくわかるが、必要な場所に必要な剛性を確保することを良く考えた設計をしたいところ。板厚を削るのであれば薄く、初代の「丸い」カタチが正解。

ここでも「競合他車」に追随して、平面多用・折り紙的造形で「大きく見える箱」にする意味は薄い。

まずパワーユニット。動き出しではトルクコンバーターをかなり滑らせている感触で、どんなアクセルの踏み方をしても、駆動の立ち上がりが右足とつながっている感触が薄い、ルーズな発進になってしまう。その先で駆動力が強まり、日常的な発進などでは「このくらい出足が付けばもう十分…」とアクセルを少し戻すと、むしろ前に押されるように速度が増える。これは遊星歯車の副変速機構が組み込まれていて、それが発進用の低速段からアップシフトした瞬間、エンジン回転が十分に下がらずにクルマを増速させてしまうものと思われる。他社に倣って、変速幅=レシオカバレッジを広げようと副変速機を設けたわけだが、アクセルペダル・センサー出力~エンジン制御~変速制御のチューニングが雑で、こうしたつながりの悪さが現出してしまっているものと思われる。

基本的な動力の作り方としては、例によってある程度の速度で転がしているところからアクセルペダルを踏み込むと、まずCVTが変速(減速側へ)してエンジン回転を高め、その後やっと加速に入る。MFDにタコメーターを表示させておくと、アクセルオンに対して何かというと4000rpmあたりまでエンジン回転が上昇する。とくに都市高速、高速道路の巡航から駆動を強めようという時。

市街地や日常使用路で速度をほぼ維持する(そもそもここで正確にコントロールするのが難しい)中から、少し加速したい、力を増したい、とアクセルをじわっと押し込むと…、1500rpmかそれ以下で回っていたエンジンがブゥワーッと2500~3000rpmあたりに回転上昇。その後になって速度増加(力が増す感触は希薄)が始まる。ここでもアクセルを一定速維持(と思われるところ)まで戻しても、CVTが増速側に変速を続けるので速度増加が続き、結局はアクセルを一度全閉まで戻すことになりがち。おそらく日本のほとんどのドライバーは、速度維持ができず、アクセルを踏む~速度が勝手に出たところで離す~そのまま放置~またポンッと踏む~戻す、の繰り返しになるだろう。

こうした中で、エンジンそのものの力感は、過給が入ってきている状態でも薄い。

その一方で、3気筒形態であることを前提にしても、ブルブル、ボロボロの雑振動が多い。エンジンマウントなどからの振動伝達も雑味が多い。付け加えるなら、減速して停止に向かうところで、CVTのベルトノイズがけっこう耳につくことがある。30km/hあたりからのアクセルオフでも。ゴォー、ザァーと言うタイヤノイズに、より高周波の「ヒョョー」という金属ベルト特有のノイズが重なる。

ライド・コンフォート

タイヤが路面を転がっていく中で、そこに現れるアンジュレーション、凹凸を踏んだその瞬間のショックの角だけは丸いが、そこからゴトゴト、ゴロゴロ、ドタドタという突き上げ型の振動がまずフロアへ、さらに車室全体へと広がってゆく。同時にお尻の下あたりから頭の後方にかけてビリビリとした震え、そして低周波の空気振動が絶え間なく現れる。シャープな凹凸を踏んだ時などにはバックドア(車体の後面全体に近いパネルが下1点で止まっているので、ワゴン形態、とくに大断面「箱」型ではこれが震え振動を起こすとそれが面状の加振源となり、室内気の振動を発生させる現象が起こりやすい)まわりからのビビリ→室内空気振動もかなりひどい。

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揺れのリズムを観察すると、まずフロントが路面のアンジュレーション形状そのままに持ち上がり、そこから締まりの甘い伸び上がりに移行する。続いてリアが持ち上がり、すぐに落ち込む。前後のバランスで言えばリアの揺れの方が甘く、1人もしくは前2人乗車であっても、リア側のばねレートが若干不足している印象がある。さらにリアの上下揺れの収まりの甘さを感じたことからリアサスペンションの構成を確認してみると、車軸よりも後方に伸ばした長四角の板金ブラケットの先にまずばねがあり、そのさらに後、ほぼ平板状の腕の後端にダンパーが取り付けられている。これだとタイヤと車体の間に力が発生した時にはアクスル後方に伸びたブラケット全体が曲げ変形し、ダンパーを正確に動かせない可能性が高い。何よりまず、ばね反力を受けて板状の腕が変形し、そのさらに先でダンパーを動かす、という力学的レイアウトである。ダンパー自体はほぼ直立に取り付けられているのは良い方向だが(前のプラットホームではかなり後傾していて、縮みストロークが深くなるにつれてその後傾が強くなり、車輪ストロークに対してダンパーが動く量が徐々に減り、減衰力が減ってゆく「逆非線形特性」になっていた)。

ダンパーを、ただ車体後端両側の「角」に収めて、室内に突出しないようにする。そこだけを考えたのではないかと思えるような設計である。設計者は、ダンパーは車両レイアウトの中で「じゃまもの」ではなく、むしろ車両設計の中でもっとも繊細に、それを組み込むレイアウト、そして「太さ」を選ぶべきもの、ということを理解していてほしい。

ちょっと話は逸れるが…

ことダイハツに限らず、ダンパーの重要性を理解しきれていないのは、日本の自動車メーカー全般の、とりわけ企画・設計部門、さらには調達部門にまで共通する弱点のひとつ(メディアも、なのはいうまでもなく)。つまり車輪の動きをダンパーがどう受けて、どう動くのがいいか。それが路面からの衝撃の受け方、その音の伝わり方に始まり、車体の揺れのリズムに現れるのは当然で、さらに旋回時の車体の動きからタイヤへの荷重変化に至るまで、クルマの運動の全てに関わってくる。その意味の深さを追求せず、把握できていない。そこにあるべき知見とノウハウも甘い。そのため、そこに投じるべきコストも削りすぎる。だから、軽の(だけではないが)ダンパーは「細い」。(オイル)ダンパーは、油圧機械。だからまずピストンの受圧面積を大きくして、ストロークによってそこに働く圧力の変動を小さくすることが、動き出しから連続動作まで特性をきれいに出させる基本。そこからして理解が進んでいないことを折々に痛感している。