Posted 4 Jun, 2020

Daihatsu Tant

ダイハツ・タント、と軽ハイトワゴンについて

■カスタムRS
空間レイアウト~商品企画

ふつうに座ってこのシートなりの体勢を取ると、頭の上には”十分な”ヘッドクリアランスからさらに15cm以上もの空間が広がった上に「天井」が置かれている。こうした超ハイトワゴンを軽自動車で作る必然性が本当にあるのか、そもそもはそこからを考えないといけない状況に立ち至っている。表面的な「マーケティング」による「売れている」「ユーザーの目が集まる」ジャンルに日本の軽自動車マーケット全体がただただ流れてしまっている。クルマづくりはもちろん、ユーザーにとっても”危うい”状況であることが一気に表面化してきている、と言わざるをえない。

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そうした危機感を覚えているのは、まず今日の「軽」の使われ方を見ると、「軽」でクルマ生活を送っている(今の日本では軽に限らないけれど)人々のほんとに多くが、ドライビングも、それを含めてクルマという移動の道具の基本を知ることがないままに、乗って、走らせているから。それに加えて、今日、軽自動車が日本の自動車販売の4割ちかくを占めるまでに至る中で、その製品企画、商品企画、技術開発、そして製造、全ての関係者がどんなに考え、悩み、知恵を絞ってきたかを近くで見てきただけに、さらにそれ以前まで遡れば、一度は消え去るかと思えるほどに衰退していた「軽」がここまでに辿ってきた紆余曲折を知っているだけに、最近の軽自動車への見方はいささか厳しくならざるをえないことを、ここでも最初にお断りしておく。これから語ることの中にはタント個有の問題ではなく、いま世に出ている「軽」に共通する問題点、弱点であるものも多い。だから「この話、他のクルマの味見でも書いてあった」となるものも多々あるはず。今回はあえて細かく語ってみようと思っているので、そのつもりで読み進めてください。

ワゴンR起源のいわゆるハイトワゴンは、それなりにスモールカーとしてのパッケージング論理性を持つものだったが、この種の超ハイトワゴン形態、それもホンダが何を思ってか始めた、フロアに対するヒップポイント高さ、着座姿勢は通常のハイトワゴンと同様かむしろ低い設定でありながら、はるかに高いところにルーフを置いて乗員の上に全く無用な空間が広がっている…という空間デザインは、あまりに必然性がなさすぎる。ガラスと鉄板は重い。それが頭上高く伸び上がった空間を取り囲む「箱」として、居住空間よりも上に乗っている。この重さが、車両運動を組み立てる上でもきわめて難しい状態を生む。のに対して、居住空間としての意味は、ほとんど、いやまったく実感できない。荷室高さとして利用する使い方もほとんどない。移動空間としての意味を持たない高さであり、重量なのである。クルマを走らすことなく座って、あえて頭上を見上げて「広いね」と言う、いわゆる「ショールーム・エフェクト」だけのものでしかない。この頭上高空間型・超ハイトワゴンの流れに、今回はタントまでも加わった。

初代タントを想う。

振り返れば初代タントは、その背高空間とスライドドアに、もう少し必然性、論理性が存在した。基本コンセプトは「軽のミニバン」。それを実体化すべく、スモールカー・パッケージングの基本として乗員の着座姿勢をアップライトにし、ヒップポイントを思い切り上げ、同時に踵を中心に前方に起こしながら回転させていくことで人間の占有する前後方向のスペースを詰める、というのはごく論理的なセオリーであり、その意味で背を高くすることの意味は十分にある。これが初代タントのパッケージングだった。たどその初代タントのを市場に送り出すにあたって当時のダイハツ企画陣は、論理的に構築したスモールカー・パッケージを少しデフォルメして、外から見てもフロントウィンドゥから前を思い切り短くしてその大空間フォルムを強調、そこに今ふうに言えば「キャラクター」を前面に出した「顔」を与えることで独自の商品性を生み出した。しかしここへ来て、ジャンル開拓者としての出発点も思考の流れも捨て置いて、必然性を持たない表面的流行に追随、乗員の頭の上に無用な空間をただひたすら積み上げる企画に、そしてこれも既存品と軌を一にする外観表現に走ったのはなぜなのだろうか? 私としては最初にあえてこの「?」を提示したいと思う。

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先駆者としての思想の継承が行われない、というのもいかにも今日の日本のものづくり、ではある。今、ダイハツで商品企画、車両レイアウト、スタイリングの現場に立つ人々も、それを組織として管制する人々も、「タントとは何だったか」をもう知らない世代、ということなのかとも思う。逆に「直近のセグメントリーダ(数だけの話)ー=N-BOX」という現実があったとしても、その既存品は過去のものであり、それに追随した商品は「二番煎じ」でしかない。既存品とその商品反響を、表面的にではなく顧客心理まで分析、理解したうえで、次の企画を生み出さなければ、先行商品を越える成果はありえない。

さらにタントの歴史を振り返ると、2代目で車体左側のみセンターピラーレス、前スイング・後ろスライドのドアを開けるとこちら側だけは2列シート側面にさえぎるものなし、という構造を採用したことで、車体骨格の成り立ち、剛性、振動伝達など、その影響は動質にまでおよび、あらゆる面で非対称なクルマとなった。それは結局今日に至るまで継承されている。

このクルマでも左側の骨格剛性が低い、かつこちら側が重いということが、様々な動きの中に現れている。動きそのものの乱れや揺らぎが非常に多いので一見目立たないが、つまりその様々な乱れの中に覆い隠されてしまっているが、やはり左右非対称であるということが、ちゃんと動くクルマに仕立てるのを難しくしていることは間違いない。

居住空間のデザイン

このレイアウトにおいて、動き出す前に確認しておきたいことのひとつが助手席のシートベルト。Bピラーがないのでシートマウントにせざるを得ないわけで、それをシートや床面強度も含めて成り立たせるのは軽のサイズとコストの枠の中では非常に難しい。座ってそれなりの剛性感はあるが、お尻の下の「硬さ」が感じられず(ふつうのシートレールに乗っている感触)、どうも落ち着かない。

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いっぽう、運転席のシートベルトはショルダーアンカーの位置が固定であって、私の体型でもシートリフターの位置をフロアから10~15mm上げたあたりでベルトが肩スレスレになり、さらに高い位置にするとベルトが肩から外側にずり落ちてしまう。シート上下調節をもっと上に動かして、この背の高い車室の中で見晴らしの良い高い着座位置を取ろうとすると、シートベルトのショルダーアンカー位置からして辻褄が合わなくなる。つまり頭上に30cm以上もの空間が空いている状態がこのクルマのそもそものシーティングレイアウト、ということがここにも如実に表れている。

リアシートは、スライド最後端位置だとバックドア内面との間隔10cm程度しかなく、シートベルトはDピラーにマウントされたショルダーアンカーが低く肩から外れる。後面衝突に対する最小限の空間とシートベルトがちゃんと肩に乗ることを前提にすれば、スライド長の中間あたりの位置でぎりぎりOK。シート座面長は日本人の短足体形には十分だが、シートバックは例によって低い。ヘッドレストをちゃんと頭に当たる位置まで上げると、シート内に残るその支持柱はぎりぎり最小限しかないのも、日本のスモールカーに共通する問題点。この後席のHP設定はハイトワゴンの標準的なレベル。頭上空間はこちらに座っても20cm以上。

現行の軽自動車に共通することだが、せめて運転席のシートベルト・スルーアンカーの上下調節機構は必須アイテム。本来はリア両側席用のDピラー・スルーアンカーの上下調節機構もメーカーの誠意として欠かせない。もちろんディーラーの納車時にその使い方をお客様に説明することも含めて。日本の一般ユーザーのシートベルト着装状態は劣悪であり、とくに後席ではちゃんとした着装状態の比率がゼロに近いのが実態である。こうした「草の根対策」も、社会の実態を考えれば軽自動車メーカー~ディーラーの責務である。(運転支援システムの実装以前に)

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メーターパネルはスカットルが遠いのを生かそうという狙いか、ステアリングホイールより上に横長のディスプレイボックスを通したレイアウトになっている。かつてムーブでセンターメーター+両側スケルトンのデザインを試みたのに比べると、やりたいことがわからないではないが、デザインとしてはセンスがない。そう感じるのは、いろんなものを(吟味した”デザイン”なしに)ディスプレイの中に並べすぎているからでもある。

ドライバー正面はアダプティブ・クルーズコントロール、レーンキープ・アシストなど運転支援の表示であって、たしかにこれはステアリングに多少隠れても成立する。しかし運転支援システムが装備されない仕様では、ここはたんに黒いパネルのみ。スピードメーターはその左側、中央ではなくオフセットした位置にある。その横にシフトポジションと燃料計、さらにその左側ほぼ車両中央の位置に小さなマルチファンクション・ディスプレイ(MFD)が組み込まれていて、とりあえず私としてはタコメーターを表示させた。

このメーター・クラスター手前のダッシュ中央に大きめ液晶ディスプレイがあり、ここがナビゲーション、オーディオなどの集中コントロール・タッチパネルとなっている。その下がセレクトレバーと空調コントロール。で、パーキングブレーキは相変わらずフットペダル、マニュアル作動・解除。ステアリングホイール上に右がアダプティブクルーズ系、左にオーディオ系・マルチファンクション・ディスプレイ選択のスイッチが並び、さらにダッシュ下にスライドドアの開閉スイッチなどなど細々と詰め込まれている。

付け加えるならばセンターディスプレイ左脇のUSBコネクター(2連)でスマートフォンを接続することができるが、単にオーディオプレーヤーとして認識するのみで、スマートフォン・アプリとの連携は取れない。ナビ&オーディオの操作パネル/ロジックを見るとアルパイン系かと思われ、同じインターフェイスを持つホンダ軽系はスマートフォン・アプリに対応しているのだが、ダイハツの調達部門はどう考えているのだろうか? 運転席直前にあるダッシュ手前面の空間を利用した物入れにもUSBのコネクターがあるがここは充電のみ。