Posted 26 May, 2020

Peugeot 508 Sedan

■2.0d GT
インテリア

この仕様は「GT」ということで、黒のレザー系内装に一部カーボン(CFRP)風ガーニッシュ。全体を見渡した時の造形と表現のまとまりは良いのだが、やはりなんといってもステアリングホイールのリムの上にメーターパネルを配したコックピットレイアウトには違和感が強い。相当にアイポイントを上げないとメーターパネル全体が見通せない。その下部がステアリングホイールのリムに隠れる。通常のドライビングに必要な情報はHUDで確認できるので、インフォメーション系への不満は限定的だが。ただ、メーターのディスプレイ・パターンによっては、燃料計が小さすぎて老眼には読み取れない。

前述のようにステアリングホイールは長径と短径が著しく異なる楕円形。正確に言うと八角形か十角形か。これを30度以上回すのはやはり違和感が強く現れる。90度回すと極端に右左の手の幅が縮まる。さらに電動パワーステアリングのアシストがとくに低速域では強め、かつフラフラとした感触で現れるので、パーキングの据え切りから市街地走行あたりの範囲では、ステアリング操作がしっくりといかない。

プジョーもうそろそろこの、ステアリングホイールの上からメーターを見るレイアウトはやめるのかと思っているのだが(ホンダがやめたので、あえてこの形を続けているのはもはやプジョーだけである)、先日発表された2008ではまだこのレイアウトである。

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俗に言う右ハンドル、RHD仕様のドライビングポジションとしては、やはりアクセルペダルとブレーキペダルが理想的な(シートに正対して座って自然に脚から足を伸ばした)位置に対して10〜12mmほど中央寄りにオフセットしていて、かつペダルフェイス(踏面)が床から少し遠い(ペダル踏面を少し手前=車両としては後方に動かすために、ペダルヒンジ位置は左ハンドルと対象のまま、少し上向きに回転させる、という定番の逃げを打っているか?)。このペダルフェイスに足を合わせるとステアリングホイールのテレスコピックをフルに手前まで引っ張り出しても若干リーチが不足する。まぁ世界のマイノリティーであるRHDをちゃんと仕立ててください、というのは贅沢な要求ではあるのだけれども。現行車両で「これならOK」というのは、日本の小中サイズよりもむしろ収まりが良いVWゴルフ系、パサート系ぐらいしかない訳で。

最近の世界的トレンドに沿って、このクルマもまたメーターパネルとセンタータッチディスプレイ両方ともに液晶パネルになっている。メーターパネルの表示ファンクションはいくつか選べ、それぞれに表現する方向性があり、表示の意味がわかりやすいのは良い。老眼にはちょっとつらいアイテムがあるのは前述のとおり。センターのタッチパネルは今回の試乗中に一度ブラックアウトしたが、リブートで元に戻った。このあたりは気にしないで付き合う。

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キャビン内の操作系や格納空間の使い勝手は全般に悪くない。

センターコンソールとフロアコンソールは2階建て。下の段にスマートフォンの非接触充電パネルとUSBソケットが備えられている。ちなみに非接触充電パネルの周りにはちゃんと畔(あぜ)が作ってある。ただしここに置いてしまうとスマートフォンが視界から消えるので、降車時に車内に忘れやすい。もちろんスマートフォンの地図、音楽アプリ、メッセージなどとの連携も実装されている。こうなると日本調達・日本仕様のナビゲーションの方が描画とソフトの両面で見劣りする。車載ナビ画面からスマートフォン連携に切り換えて、再度戻ると、車載ナビの目的地設定・ガイダンスがキャンセルされてしまうのだが、なぜ?

フットワーク

このクルマの動質の最も良いところは、フランスらしい足の動きと、ある程度半径が大きな路線形状から、もっとタイトで頭をクッと速く回り込ませる動きが必要な小さな半径のコーナーまで、そしてさらにそれが連続するセクションにおいて、脚の伸縮がしなやかにして、タイヤがきちんと地面に付いてその仕事(摩擦力発生)をし、路面のアンジュレーションを踏みながらも車両の挙動、トレースする軌跡に揺らぎが少なく、いかにも脚がしなやかな感触で走っていく、その身のこなし、いかにも4輪車のお手本のようなコーナリングパフォーマンスにある。味見を通して、そう私は受け止めている。

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これだけのサイズにもかかわらず、モナコ市街の背後にそり立つ崖を駆け上るつづら折れ、その先の峠道のような、つまりモンテカルロ・ラリーの舞台を想起させるような、日本の中でもタイトかつナローな山岳ワインディングロードであっても、ターンインでは前輪に荷重を軽く載せた状態からステアインすれば、まずコーナーの中に向かう頭の横移動、それに連続して必要なヨーイングがスッと発生し、その動きの中で柔らかく、しかも押さえの効いたボディ・ロールが発生。これでコーナリングの体勢が決まる。回り込み運動が十分に現れ、その先の軌跡が決まったらバランス・スロットル。何度か述べたように、ここで路面の舗装が荒れていても大げさなストロークや揺れを発生させることなく、しかもタイヤの接地荷重もトーとキャンバー、接地面の横ずれ(スカッフ)などの余分な変動、乱れが少なく、ぐんぐん旋回してゆく。タイヤが通ってゆく軌跡、車体の四隅がどこにあるか、が素直な感覚でつかめるので、ナローでタイトなワインディングでも、クルマのサイズを持て余すことがない。この「運動の中の車両感覚」については、そんな状況を走る状況があった中でちょっと驚かされた。

こういうクルマに出逢いたくても、最近ではなかなか難しい。これだけでこのクルマの価値は十分にある。

さらに言えば、2種類のパワーパッケージの比較ではこのディーゼルエンジン仕様のほうが、クルージングからワインディングまでどこでもきれいに動き、揺れもハンドリングも落ち着きが一段と良い印象。ガソリンエンジン仕様の脚質については後述するが、ディーゼルエンジンの方が70kgほども重く、おそらくダンパーの基本減衰設定がそちらに合わせて仕込まれている(詳しくは後述)のと、フロントに位置する、むしろピッチングやヨーイングに対する安定要素(錘)として働いているのではないかと思う。

減衰特性連続可変ダンパー

ここで、KYBヨーロッパ/フランスが開発、プジョーとともにセットアップした、という可変ダンパー(他)のドライビングモードセレクトについて述べる。

ここまで書いてきたドライビング実況レポートは、ほぼ全て「ノーマル」モードでの走りである。「スポーツ」にすると、もちろん縮み/伸びの動きがその始まりから”締まった”感触になるが、路面凹凸を踏んだ時の突き上げショックやそこからの上下揺れがきつくなることはなく、車体の動きを押さえたほうが運転しやすい、というようなドライバー、つまり操舵の切り込み・戻しが速い/ステップ状入力になりがちな運転に対しては、こちらのほうが「しっかりする」印象になるだろう。しかし、このクルマのフットワークの美点、つまりまず脚の伸縮のしなやかさと懐の深さ、そして何より路面のうねり系凹凸を越えてからの車体の揺れ、つまり柔らかい上下の動きからふつうより少し長周期の揺れに移行しつつふわりと収まる、あの感触が薄くなってしまう。コーナーへのターンインでも、ヨーイング発生からロールがちょうど良い位相で動き出し、旋回体勢に落ち着く…という一連のプロセスが、少しニュアンスの薄い、つまりステアリングを切る〜それに応じて曲がる、という“当たり前”の動きに近づいてしまうのだ。

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「コンフォート」は、「ノーマル」から脚が細かく伸縮するところから動きが全般に“緩く”なる。とくに「快適」になるわけではなく、むしろ揺れが大きくなって心地よさとしては後退した、と感じる瞬間がそこここに出る。それ以上に、ステアリングのパワーアシスト量が妙に多くなって、すなわち軽くするだけで、タイヤの感触がさらに薄くなる。住宅地、市街地から都市高速ぐらいまでの速度域でずっとこの手応えになって、いささかドライビングのリズムを崩す。

というわけで、このクルマを走らせるなら、モードセレクトは「ノーマル」固定がおススメである。

ということは、プジョーとKYBフランスの共同作業はとてもうまく行ったのだろうな、と思う。しかもプジョーの人々がかつて自分たちの先人が創出していた佳き走りのリズム、俗に言う「猫足」の体感とそれを生み出すエンジニアリング・ディテール(主にダンパーの縮側流出コントロール機構にある)を知っていて、それを新しいエンジニアリングで再生・再現することを具体化し、しかもその特性、とくに走りのテイストに関わる領域の狙いが、ダンパーを設計し、チューニングしたKYBフランスの技術者にも伝わり、双方が体感として理解していなければ、ここまでのモノづくりはできない。実際に関わる人間はお互いに少数で十分だが、では今の日本でこういうクルマづくりができるか? 残念ながら、できないと言わざるをえない。