Posted 21 May, 2020

Jeep Wrangler Unlimited 3.6L

フットワーク~4H-AUTOモードで

と、ここまでは2Hモードでの動きであり、このモデルチェンジで追加された4H-AUTOモードにすると動きの質感はかなり変化する。

その特質体感の話に踏み込む前にまずこのラングラーの4輪駆動メカニズムについて触れておくならば、後軸直結・前軸へはトランスミッション出力部のトランスファーから脇に出た駆動軸に油圧多板クラッチを組み込み、そこに圧着力を発生させることで前輪への駆動力を分岐する、という、いわゆるトルクスプリット手法。この4WD形態は、机上論では「前後軸間解放の後2輪駆動状態から直結4輪駆動まで」連続的に変化する、とされるが、じつはそんな単純なものではない。今後もこうした4輪駆動メカニズムと車両運動の関係について、様々に語っていくことになると思うが、今回はその「入り口」として、アウトラインに止めるけれども要諦を整理しておきたい。

まず「駆動トルク配分」から。1軸直結・もう一方の軸に駆動分岐クラッチを介して駆動のための回転と回転力(トルク)を伝える、という構成において、トルクスプリット・クラッチの圧着を離して前軸がフリーに回転する状態では「F0%:R100%」(のはず)。逆にこのクラッチを締結してその中で滑りが出ない状態は「前後軸直結(リジッド4WD)」になり、1本の回転軸の両端で前と後ろの車軸を回す形になるので「駆動トルク配分」は「存在しない」。各輪の路面との摩擦力=駆動反力に応じた大きさの「駆動力」が刻々と変化しつつ発生する状態になる。つまりその4つのタイヤそれぞれと路面の摩擦力の大きさの比として「駆動力配分」は、刻々と変化するけれどもある数値として表すことは可能だが、現象としては「不静定」となる。この基本さえ分かっていない記述を、メーカー自身の資料やカタログでもしばしば見かける。

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さらに、このクラッチによって従駆動輪側にどれほどの駆動トルクが「分岐」されるか。まずクラッチにある圧着力を加える。これで一応、クラッチが伝えることができる回転力の上限が決まる。ここでクラッチの入力側(このクルマの場合は後軸に直結されて回っている)に加わるトルクを強めていき、出力側(このクルマでは前軸へ)も一体に回転しながら、圧着力によって決まる伝達トルクの上限を越えるところでクラッチ内部に滑りが発生。この状態になって初めて、圧着力を制御することで得ようとしている出力側への伝達トルクが一定値に定まるのだ。

ということは、このクラッチの圧着力によって決まる伝達トルク容量を下回る駆動トルクで走っている状態では、前後軸は事実上、直結状態で前後の間でトルクをやり取りしつつ、回転差は出ない。

前後軸を直結したリジッド4WD状態では、それぞれの軸・車輪の回転速度に差が出そうになっても、直結軸の中でその動きが止められ、タイヤ接地面が滑るしか、回転差を許容する手段がなくなる。だから「タイトターン・ブレーキング」現象が起こる。タイヤが粘着している低速で大舵角まで切り込んで小さな円を描こうとすると、それぞれのタイヤが通る円の径が異なり、ということは円周の長さが異なるのに、駆動軸は同じ回転速度しか許容しないから、最も小さな円を描く=回転速度が遅い、旋回内側後輪の回転速度に他の3輪が引きずられて走行抵抗が急増、減速する、という現象である。同じ現象は、左右輪の間に組み込まれているデファレンシャルギアの差動を止めた時の両側輪間でも起こる。

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そこまで極端な現象にはならないけれども、速度が上がり、タイヤと路面の間で小さな滑りが起こるのは当たり前、という状況になっても、リジッド4WD状態では、この前後軸間の回転速度差を押さえ込むことによって旋回運動を打ち消そうとする動きは常に発生する。これは逆にみれば、直進状態からクルマが向きを変えようとするのを押さえる、ということであり、じつはセンターデフを入れてもその歯車の噛み合いと回転の中にある回転抵抗だけで、4WD車両は直進安定が向上する。この効果を車両セッティングに織り込もうと、トルクスプリット4WDでも中高速域では駆動分岐クラッチを軽く圧着させているクルマ/メーカーも少なくない。これにはクラッチの応答を高める狙いもあるのだが。しかしこれをやると、向きを変える動きを作る中で最初はクルマが小さなステアリング操作に抵抗し、クラッチが滑り始めたその瞬間、急にフラッと向き変えの動きが出る、という、本来あってほしいクルマの動き(微小舵の最初から素直に回頭を始め、向き変えの中では安定している)とは逆の挙動を示す。スラロームや緊急回避系の運動では、いささか扱いにくい特性を抱えたクルマになりがちだ。

このトルクスプリット・クラッチの仕込みの難しさ、根本的な弱点については、R32系スカイラインGT-Rを発売直後に購入して以来、氷雪上を含む様々な状況で様々なクルマを体験し、評価やチューニングにも参画した中で、それなりの体験を積み上げてきた。私がここで記す現象、内容についてはそうしたバックグラウンドがあることを知った上で読み進めていただけるとうれしい。

さて、そうした観察眼を持って、通常の舗装路面(ドライ状態を主に)を走ったラングラーの4H-AUTOモードの話に戻ろう。

直進状態の中で片輪が(ここでもまずフロント)路面のアンジュレーションを踏んだ時に、その1輪が凹凸に当たった瞬間に起こる回転速度変化(瞬間的な減少)とアクスルの変位(向きの変動)が他の車輪にまで影響する形で、すなわちお互い同士の回転を拘束する現象によって、前後のアクスル同士が上下方向とトー方向を合成したダイアゴナルな動きを起こすようでもある。つまり、ちょっと神経質にも感じられる進路の揺らぎを生じ、同時に車体のロールとピッチの小さな動きを伴う。2Hでは駆動機構から切り離されて自由に回転できていた前2輪にもこの回転拘束が及んで、各輪の回転速度変動を逃がしにくくなっている現象も出ている。

またこのモードだと、発進や微速・低速域のタイトターンでも、2Hモードと比べると若干の引っかかり(クルマ全体の転がりの渋さ)を感じる。アクスセルペダルを少し深く踏み込まないと、すなわちエンジントルクとトルクコンバーター効果を重ね合わせたスタートアップ(蹴り出し)が少し強く立ち上がるところまで踏まないと、クルマが動かない瞬間がある。

ということは、この4H-AUTOモードは、前軸に駆動トルクを分岐するハングオン(=トルクスプリット)・クラッチを、最初からけっこう強めに圧着させているのではないかと推測される。それは、舗装路での直進・ライントレースの中で微舵・小舵領域でまずステアリングの手ごたえが渋重く、クルマが向きを変えたがらない感触が、いかにも前後直結を思わせ、ここで4H-PARTTIMEモード(リジッド4WDになる)にしてみると、その感触がほとんど変わらないことにも表れている。そしてもちろんこの「リジッド4WD」感は、向き変えの動きがもう少し強くなったところで弱まり、2Hモードの運動感覚に近づく。つまりクラッチのトルク伝達容量を越えて、前後軸間に回転自由度が出たことを感じ取る。ただ舗装路面では、その変化はそうなるはず、と感覚を集中していればこそわかるもので、変化もじわりと穏やかだ。

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というわけで…

このクルマを気持ちよく走らせるとしたら、市街地から高速道路まで日常的には「2H」で走る。これは作り手側もそう考えて仕立てていると考えられるし、FCAJ関係者から、それを裏付ける証言もあった。

路面状態が少し悪くなってきたとき、つまりフルウェット、さらにもちろんみぞれや雪になってきたら4H-AUTOに。4H-PARTTIMEはハングオン・クラッチの制御内容を考えると、リジッド4WDの、1輪が接地していればそこで駆動力が得られるという、リジッド4WDならではの踏破能力を必要とする状況、例えばアメリカで全路面踏破可能車両の聖地とされる「ルビコン・トレイル」を前後軸を逆方向にツイストさせる「クロール走行」で踏破してゆく時などを除けば、ほとんど使う場所がないのではないかと考えられる。氷上ハンドリングコースで、多少路面が荒れていて、しっかりした前後軸回転拘束によるヨー・スタビリティーが欲しい…といった状況では使うかもしれないが、その場合は、ターンイン手前から積極的にヨー・モーションを作ってゆく古典的なリジッド4WD対応ドライビングが要求される(はず。いつか氷雪面上で確かめてみたいものだ)。