Posted 21 May, 2020

Jeep Wrangler Unlimited 3.6L

エンジニアリング・デザイン

さすがに昔のジープのレイアウトとは基本的に異なるものだが、今日のSUVカテゴリーの中では(顔つきだけでなく)独特のポジションを占めるエンジニアリング・パッケージ、キャビン・レイアウトであり、走りもそのキャラクターを作り手たちが肌感触で理解している印象で、うまく合わせ込んでいる。

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「顔」はたしかにジープの伝統的な表情だが、フロントホイールからキャビン、フロントドアの見切り線までの距離が、かつてのジープに比べると長い。その後ろにアップライト、スクエアなキャビンを構築している。この車両レイアウトの基本設計段階から、ホイールベース長短のバリエーションを作り分け、さらに前後に分かれたルーフパネルはもちろん、リアクォーターキャビン、サイドウィンドウと一体のドアと、車体上半分のほぼ全てが脱着可能、ウィンドシールドまで倒したフルオープンまでに至る変身が可能なアッパーボディを形づくることを考えて、相当な知恵を使っているし、パッケージング、構造設計、スタイリング、素材、サプライヤーまで、その意図が浸透し、「こういう次世代のジープを作ろう」という基本構想とそれを実現するロジックを共有していることが各所に現われている。

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基本骨格としては、アンダースラング形態のラダーフレームを持ち、その上に側面壁とフロア、そしてロールケージを組んだスケルトン状のボディシェルを締結している。こう記述するだけでは旧来車種、あるいはかつてピックアップ車両をベースに誕生した頃の元祖SUVと変わらない。だが、この主骨格の構成と造り、さらに素材の選び方と組み合わせ方、加工法まで、二十年一日のように進化の鈍い日本車の骨格を見慣れた目には、強い説得力を持って迫ってくる。

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ここでは簡単に紹介しておくが、まずラダーフレームは最新組成のものを含めた2種類の高張力鋼を組み合わせている。昨今の日本の定形思考=「高強度な分、板圧は“薄く”」ではなく、まず十分な剛性を得ることを考えた素材構成と組み上げ方であって、主要部位には圧延時に連続的に板厚を変化させる「テイラー=ロールド・ブランク」を導入。クロスメンバーのみアルミ合金(A6061-T6、すなわちアルミニウムにシリコン、マグネシウム、微量の銅を添加した組成で熱処理を行い、十分に硬く強いが押出し加工に対応する素材)。その上の車体は、逆にフロアパネルに粘りやしなり、マイルドな感触を生む軟鋼を使い(車体重量の50%以上)、上家の骨格を形成するBピラーとルーフサイドレール、全面衝突に対応するフロント・サイドメンバーなどは熱間成形の高張力鋼、ウィンドシールド枠だけはアルミ合金と適材適所の使い分けを意図したことが伝わってくる。

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こうした素材選択と組み合わせ方、構造設計によって、主骨格の重量は旧来からの構造(1987モデルイヤー登場のYJ系に遡る。その起源はといえば'60年代初頭のM38A1〜CJ5に行き着く)を継承していた前型との比較では62.9kg軽くなっているという。その一方では、この上半部が見た目にもかなりガッチリとしたロールケージを形づくるフルオープン骨格の状態ですでに、今日のSUV、乗用車の平均レベルを大きく越える剛性が得られているはず。そこにサイドのドア、ルーフパネルをアタッチする構造。GFRP・SCM/インシュレーター材サンドイッチのルーフパネルの造り、形状なども実務的かつクルマの成り立ちに合わせてよく考えられている。そのロック機構も良い意味でゴツく、かつきしみ、ガタ音などがほとんど出ない。構造からすれば、雑に仕立てるとけっこう音振動の問題が出るところ。ところが、走行中の上屋のしっかり感も高いので、主骨格と外装パネル、その固定がうまくできていると見ていい。

こうした製品の成り立ちをそのままデザインとして見せている。そもそものジープの形態を現代の基準、使われ方などに合わせて進化させ、さらにピックアップ・ベースだった時代のSUVが、荷台上にリア・キャビンを別体で乗せていた、あの頃の雰囲気も伝承しつつ、という表現となっている。ものづくりの都合まで含めて、このクルマの場合は存在意味をちゃんと主張した良い「デザイン」だと思う。