Posted 31 Jan, 2020

VolksWagen Golf R

フットワーク

舗装路面における旋回能力、ドライバーに対する反応、ほぼ全域にわたるそのリニアリティ…も同様に素晴らしいものがある。

ステアリングは中立付近からじわりと動かし出すところに適度な遊び、と言うよりはたわみ感があり、そこからねじり反力が立ち上がって、ちょうど良い感じで重さと機械系+ゴム系の感触が増してゆく。それと同調してフロントタイヤがねじれつつ向きを変える動きが始まり、それが手に伝わるだけではなく、足元に感じるフロントの動きとして伝わってくる。とはいえ、私の感覚で言えばその中に電動アシスト特有のふわりとした感触があり、また以前からの解析で、このタイヤがねじれてゆく手ごたえを思わせるねじり感と重さの小さな変化の最初の部分は、タイヤ直接の感触ではない、「作られた」感触が入っていることもわかっている。それでも、自動車メーカーの評価者の中でも「ゴルフのEPSがとても良い」と言う定説があるのはよくわかる。これが理想とは言えないのだけれど。そのゴルフ系のステアリングの中でも、このRはけっこうズシリとした重さを付けている。

付け加えておくなら、ゴルフ7(第7世代)にモデルチェンジした当初、アシストモーターからラックと噛み合うピニオン(VW=ボッシュ-ZFによるデュアルピニオンEPS)のリダクションギアのところに踏み込んであったラバー・カップリング(ギア音・振動の吸収が主な役割だが、これが「タイヤの初期ねじれ」のふりをする要素)をなくしたことで、中立付近のねじり手ごたえが若干スポイルされていた。しかしその後1、2回のイヤーチェンジの中でまったく問題のないレベルまで改善されている。Rは当初からこの修正版(おそらくほとんどは制御による)になっている。

その中立付近から先、少し深くステアリングを切り込んでいくところから、フロントの横方向への動きが手の動きに合わせてきれいに立ち上がってくる。このフロントの横移動とそれによるヨーレイト(ヨー角速度)の立ち上がりはとても自然であって、多くのドライバーにとって使いやすい。エキスパートにとっては、ほとんど何も考えずに「手を動かしたとおりに向きが変わる」感覚に入り込める。

そこで車体全体の向き変え、すなわちヨーレイトが立ち上がったところでリアの踏ん張りが自然な形で現れ、車両全体が流れるように向きを変えていって、旋回状態へと移行していく。切り込んで止める舵角、そこに至る操舵速度、前後輪荷重移動の状況などに応じて、このヨーレイト発生から前後タイヤのグリップ(横力)がバランスし、定常円に近い旋回へ、という一連のプロセスが、非常にきれいに、かつ運転操作の中に織り込まれたリズムのとおりに現れるので、ドライビングが非常に組み立てやすい。フロントの応答を見ながらクルマの旋回運動を組み立てて行く、というプロセスが、基礎トレーニングがきちんとできているドライバーであればほぼ無意識に、すなわち自分の身体の延長に近い感覚で組み立ててゆける。

こういうクルマは、じつは非常に少ない。稀、と言ってもいい。

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いったん、円を描く態勢に入ったところで、(コーナリング・ドラッグ分を釣り合わせて速度を維持するだけの駆動力を加える)バランス・スロットル状態に持ち込む。ここでも、アクセルペダルの小さな動きに対するエンジンレスポンスのの速さとリニアリティによって、旋回+駆動のバランス・コントロールも非常にやりやすく、デリケートにできる。ドライバーがこのバランス・スロットル状態に持ち込めれば、わずかなアクセルの戻しあるいはミリ単位の踏み込みによって、荷重移動と前後タイヤのグリップ・バランスの微調整、そこで現れる旋回軌跡と車両の内向姿勢の維持と変化が、さらにはその中からトラクションのかかり方などを、ほぼ自在にコントロールできる。

旋回時の求心加速度、すなわち横Gのレベルを上げて、ややタイトなコーナーを定常円状態からさらに深く回り込んで行く時なども、フロントの余裕を見ながら(ちゃんとクルマと”相談”しながら操舵タイミングと舵角速度を使い分けられるドライバーなら、常にフロントタイヤに十分な余裕を残して旋回に入れる)、ステアリングをコーナーの深さに合わせてじわりと切り増し、路面の勾配やカント、ミューの変化も感じながら、バランス・スロットルの状態を微妙に変化させて前後荷重を微妙に動かすと、クルマはぐいぐいと回り込み、旋回を深める挙動を作っていける。

さらにここでコーナーの脱出方向が見えていれば、アクセル・コントロールで「曲がる」こともできる。深く回り込む挙動が起こっている中からエンジントルクを強め、駆動力を強めていくと、フロントが引っ張るだけではなく、むしろリアから押してくる感じが明確に腰に伝わり、それがさらにヨーを維持する、時に強める方向に働くのである。つまりヨーレイトが十分に出ている旋回の中で駆動力を強めるとその多くがリアタイヤに伝わり、クルマを押し出す動きと同時にリア側からヨーレイトを強める動きが現れ、ある程度の回り込みを維持しつつ加速状態に向かう、という後輪駆動車のような挙動を見せるのである。

これは前後軸それぞれに左右輪のブレーキをコントロールすることで、左右の差動制限、いわゆるリミテッドスリップ・デフとしての効果、左右輪間の駆動力バランスと回転差抑制による駆動とヨーレイトのバランスを生み出していることによる。おそらく、前記のような旋回+駆動がバランスした状態では、後軸側の差動制限を強めているはずである。上りが続くタイトな峠道で、右に左にとこうした強めのパワーオンを繰り返す旋回を続けた直後にクルマを止めると、4輪のブレーキがかなり熱くなっていることからも、このブレーキ・デファレンシャル制御を積極的に使っていることが確認できた。

こうした走りの中で、ステアインから旋回に入るところではヨー発生を邪魔する前後軸間の回転差拘束が顔を出すことなく、しかしパワーオン旋回では上記のような後輪側に強い駆動が発生してくるという特質には、前後軸間で駆動伝達をクラッチングするトルクスプリット・ユニットの素性と制御もかなり効いてくる。ここに使われているのは第5世代のハルデックス(Huldex)・カップリング。ドライビングの中で(少なくとも舗装路面では)その存在を意識することがない、ということは、かなり巧みに働いていると考えて間違いない。日本車が多用する、電磁石の推力をボールカムで増幅して多板クラッチを押し付けるタイプでは、そのクラッチングがヨー運動のギクシャクとなって現れ、こうはゆかない。ただ、ハングオン・クラッチによる前後軸結合可変方式の4WD(この機構の作動と効果、運動影響は、世に語られているような簡単なものではないのだが、その話はまた別の機会に)は、路面μが下がるほどに車両運動の中に乱れが顔を出すようになる。私はまだ、ゴルフRでそうした状況をフルに走ったことがないので、ここ(雪氷路における車両運動)に関しては未だ語るものを持たない。

そこまでいかずとも、都市高速レベルのコーナーで、最初の回り込みがうまくいったところから、旋回立ち上がりに向けてアクセルペダルを踏み込んでいくと、エンジンの吠え方が強まるのに合わせて少し接地感が強まる感触、若干ながら後ろ脚がわずかにスクワットしつつ押し出し、ぐいぐいと回り込んでいく、という一連の挙動は、普通のドライバーでもドライビングの段取りさえきちんと組み立てれば、いつでも体感することができる。

少なくともこの運動領域で、そこで見せるタイヤの摩擦力のバランス、そこから起こる車両運動において、ゴルフRは、FWDのGTIとは異質の存在であることも、一応ここで申し添えておこう。

すなわち、「ドライビングと言うスポーツ」のためのクルマ、その質は、この領域でも非常に、確実に、高い。