Posted 21 Nov, 2019

Alpine A110

コックピットに収まって

そうした理屈を脇において、コックピットに収まり、2人の全身を外から包んでくる空間とその四方に伸びる比較的タイトな車体を見渡した感じはなかなかよろしい。ちょうど良いサイズ感である。頭まわりの空間形状も丸さを生かして圧迫感もないし、ちょうどよくタイトなフィット感をうまく作り出している。

ちなみに60年代までの自動車が丸かったのは、鋼やFRPなどの薄板素材をシンプルにかつきれいな形に張って剛性を出すには、言うまでもなく「球体」が最善の形であるから。

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気になる点としてはステアリング・コラム奥の関節部が少し低い(20mm程度)。しかしこれはフロントのロワーアームに接近してラック&ピニオンを置くとすれば、そこから立ち上がるシャフトに組むダブル・クロスジョイントの折れ角をぎりぎりまで取っても、ステアリングコラムの角度を水平近くまで寝かすところまでは持っていけないので、これはこれでしようがないところではある。パワーパッケージがなく、インホイール型ダブル・ウィッシュボーンなのだから、アッパーアーム側にタイロッド~ステアリング・ギアボックス(ラック&ピニオンでなくてもいいし、むしろそのほうが現状よりも良いものができる可能性がある)を置けば…と、この領域を考え続けてきた人間ならばアイデアが浮かぶのだが、欧州、とくに独創性を好むフランスといえども、そこまでの見識を持つ現役設計者はいないだろう。

この種の2座・後方エンジン・レイアウトのパッケージングとしては、右ハンドル化した時のペダル・オフセットがほとんどないのも特筆される。ここはポルシェ、そしたもちろんフェラーリなどよりもはるかにポジションの収まりがいい。幅方向の余裕があることもあるが、シーティング・ポジションをぎりぎりまで前に追い込んでいないことがうかがえる。言い換えれば、リア・ミッドシップとしては基本レイアウトに甘さが残る、ということではあるが、このクルマが狙うキャラクター、そしてパワー・パフォーマンスにおいては、そこでもバランスは取れる。蛇足ではあるが、2代目NSXの、コドモが組んだパッケージング・レイアウトなどとは比較にならないマトモさである。

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この仕様(Pure)のシートはシートバックまで完全固定の一体シェルタイプであり、薄いクッション材の上にバックスキンと革地のキルティングの表皮を貼っている。この表皮~シェルのフィット感が、これもなかなかよろしい。やっぱりフランスのシート、という印象。間違いなく、旧ベルトラン・フォール系の造りである。若干、肩甲骨を押してくる圧力があり、呼吸が浅くなりがちなのが数少ない難点。アルミ合金角断面・平面組み合わせの車室床骨格の上に、カーペットを挟んで一般的な鋼のシートレールを固定し、その上にかなり厚手のアルミ合金板かと思われる下駄を立てているので、シート全体の剛性も十分に高い。ドライバーとしては(パッセンジャーとしても)、路面を踏んでいく揺れがリズムよく体感されて、なかなか良い感じである。シートに収まる人体にとっては、硬からず、柔らかすぎもせず、無駄な揺れが少ない。こういうのを「乗り心地が良い」と言う。

ディスプレイはセンターはもちろんメーターパネル内もシンプルに液晶パネル。ただしメーターはクラシックな円形の2連タイプで、トラディショナルな中にインフォメーションを組み込んだデザイン、滑らかな針の回転などのグラフィック・コントロールも今日流に巧みである。インフォメーションが必要以上に多くないのも良い。ただしノーマルモードでは燃料計が小さい(スポーツモードにするとメーター・ディスプレイも変わり、右側に扇状に燃料計が現れる)。またセンターディスプレイの仕様は現状、日本向けにはアジャストされていない。スマートフォン連携を一歩進めてくれるだけでいいのだが、今は電話とオーディオソースのみの対応のようである。その下に並ぶ現代版タンブラスイッチなどのデザインも良い。

付け加えれば、スピーカーの位置、振動特性がそこそこ良いのか、市街地から高速巡航まで、オーディオの音質、響きがまぁまぁ素直。この種のクルマとしても珍しい。

さて、走り始めよう~フットワーク

動き始めると、最初に気になるのはステアリングの手ごたえ。操舵量とフロントの動きから見ると、オーバーオール・ステアリングレシオとしてはちょうどいいところだが、問題はEPS。アシストモーターがステアリングコラムの近い所にいる感触。いかにも電動モーターアシスト、という手応えがずっと続く。中立からの動き出しには常に弾性感があり、操舵に移ってタイヤからの反力が出たところでアシストが入ってフラフラする。スピードが上がると中立の両側がバネのような反力感とともに重くなる。ドライバーがそのあたりをうまくやり過ごすことができれば、タイヤのケースが捻られて横力を発生するところからフロントが軽やかに横移動を開始する感覚は、いかにもコックピットから前、フロントタイヤ側に重いものがないクルマならではの動きである。この動き出しの軽快さを体験するだけでも、ほとんどのドライバーはこの車を楽しく感じるのではないだろうか。ということは、私のレベルだとそうでもないわけだが。

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そのフロントの動きに続いて起こるのは、リアタイヤが、左右の間のやや高い位置にある「重いもの」を受け止めつつ踏ん張りを始める感触で横力を発生し、早めのタイミングですっと踏ん張りながら、車体全体の向きが変わっていこうとする動きを押さえ込みつつ支え、旋回に落ち着く、というリアから車両運動を収れんさせる動きである。わかりやすくて良いのだが、ドライビングのリズム、人車一体になって旋回する、というバランスを実感するためには、やはりもう少しヨーイングが現れてくるのを体感する瞬間を経過しつつ旋回運動に落ち着く流れが欲しい。しかしそれはボクスター986~987中期までのベースグレードにこそあったが、それ以外、とくにケイマンでは味わえない/味わいにくいのであって(ケイマンでの例外はGT4)、さらにこの大きめやや大きく重い、といっても最近の中ではふつう、日本のものよりはかなりきちんと構成されているパワーパッケージを後軸直前に横置きする(と言っても、2代目MR2=SW20系のように後傾したエンジンが後軸にのしかかるような配置ではないのが救い)レイアウトでは、この向き変え~一瞬のヨーイング/間を置かずにリアから収れん~旋回、というリズムになる。おそらく、試作車ができて、走りを仕立て、仕上げてゆく中で、自然にここに収まったのだろうと思われる。

つまるところ、フロントの軽さを活かして車体全体のヨーモーションを作り、そこからはリアタイヤを軸に、その間にある、腰より少し後ろにある重量物の動きを抑えながら、どちらかと言うとステアリングによって車両運動の軌跡を決めていく、という走りの組み立てになる。

まったく、初代MR2を想い起こさせる向き変え挙動~旋回バランスである。MR2(AW10)でもとくにリアタイヤをサイズアップするとこの感じの動きになった。それを、タイヤなどの進化を織り込んで今日のクルマに仕立て、それが受け止められるレベルのパワー・パフォーマンスを載せてやれば、このクルマになる、という実感を味わった。もはやAW10の資質を、その前にあったフィアットX1/9の資質(基本は共通しているが、いかにもアンダーパワーだった)を、思い起こせる評価者、企画者は、世界小野メーカーにもほとんど残っていないだろうけれども。AW10の出現は1984年、振り返ればすでに35年が経過しているのだから。2代目MR2(SW20系)になると、エンジンが重く背が高くなり、さらに後傾した上に、ターボ過給の出力特性の悪さが重なったたので、格段に挙動のいやらしいクルマになってしまったのだが。

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やはりパワーパッケージ横置きだとここに落ち着くしかない。國政師匠の当時からの指摘そのままである。そういう意味では素直に、かつ真面目に仕立ててある、という見方もできよう。

少しスピードを上げて0.4~0.5Gあたりの旋回をしても、前述のターンインから一定円維持に至る動きのリズムは一定している。ドライバーとしては、それさえわかっていれば「こういう旋回をしたい」というイメージを組んでそのとおりの動きを作ってゆくのはやりやすい。ただし操舵速度(カクカク、キュッと雑な操舵はNG)などきちんとした運転が要求される。きちんと、ということは、タイヤのねじり→そこからの横すべり角発生→フロントの横移動…というつながりを、手の動きの速さでコントロールしつつ旋回にもっていく、という意味である。

高G領域まできちんと仕上げてあるのは伝わってくる。

とはいえ舗装良路、ドライが得意領域というのはこの種のクルマの定理。