Posted 21 Nov, 2019

Alpine A110

実車を前に製品企画を考える

自分たちの歴史の中にあるアイコンをリメイクする、という企画はよくわかる。ルノースポールの中から再びアルピーヌを独立したブランドとして立て、その第一号商品としてA110を選び、スポーツブランドの2座スポーツスペシャルティクーペとして、今日ではむしろベーシックなカテゴリーに属する車両形態と価格帯を狙ったのも、商品プランニングとしては分かりやすいし、私が考えも多分そのあたりに落ち着くと思う。

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ここでひとつのポイントは、A110と言うアイコンの浸透状況であって、間違いなく1960年代末から70年代にかけて車が好きだった現おじさんたちにとっては魅力的な存在である。ただしそのクルマ好きセグメントは世界的にあまり大きくない。その一方でキャラクター、スタイリングが特徴的なので、当時のA110を知らない層、例えば20歳代~60歳代と幅広いゾーンの、しかも自ら積極的に人生を楽しむタイプの女性など、姿形や雰囲気から感情移入をしてもらいやすいことは確かだと思う。

スタイリング担当者としてはかなり大変だったと思うが、独立4連のヘッドランプーーただしこのうち内側の2つに関しては、元々はラリー競技ために必要になり、後付けしたものなのだが、それはそれとしてーーは「顔」としてはわかりやすい。それとテールエンドの造形とそこに向かうダブルバブルのルーフ。この2つを組み合わせたことでA110らしく見えるようになった。しかし昔を知っている人間としては「ちょっと太ってる」と思う。同時にここまで旧型のイメージをコピーする必要があったか、とは思うが、それはそれでアイコンをリメイクすると言う意味ではオーソドックスなアプローチと言えるだろう。その意味では、走りも含めてミニ、ビートルなどよりは正統派リメイクである。

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というように商品企画としては、まぁいろいろ事情はあるのがわかるが、このクルマの存在が公にされてまず最初に考えてしまったのが「なぜ横置きパワーパッケージのリアミッドシップなのか」ということ。車両運動側から見れば、この形のミッドシップはアンダーパワーであることで成立する。かつ、本来ならミッドシップ・レイアウト最大の利点であるヨー慣性モーメントが小さく、それが向き変えのレスポンスだけでなく動き全体に現れ、4輪の摩擦力のバランスがいつもうまく取れる動質を実現する、と言う面は難しい素性となる。ただしそれがわかっている自動車設計者は世界的にもほとんどいないと思われる。

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単にヨーイングを発生させる瞬間だけでなく、その先の旋回における4輪の摩擦力バランス、そしてトラクションも含めてリアタイヤを軸にした加速旋回、コーナー脱出と続く一連の挙動を考えると、むしろ軽いエンジンを後軸の間に低く置いたほうが素質としては優れたものになりうる。かつての911がもちろんそうだし、オリジナルのA110もまたそうしたクルマであった。ただし、エンジンを後軸側に置く場合は、その質量による運動エネルギーを受け止め、かつ駆動力も発生させるため、リアタイヤのキャパシティを十分に大きくしておき(このリメイク版ではフロントに対して3サイズアップ)、荷重移動などを使って、摩擦円の大きさをコントロールするドライビングスキルが必須となる。

いずれにしても、パワーパッケージをミッドシップに置くことによるヨーイングを核とした車両運動の様々なメリットを生み出すとすれば、やはりエンジン縦置き(直立、でもできるだけ低く)レイアウトが必須なのであって、それはすでにボクスターによって立証されている。

今回、全くゼロから車両レイアウトを起こすのであれば、やはりエンジン縦置きを最初に思い定めてアプローチを始めてもらいたかったところではある。ただしルノーにはそれに適したトランスアクスルのベースがないこともまた確かであって、開発にかかる工数、コスト、車両価格面からも、既存のFF車用パワーパッケージを載せて、うまくいくだろうと思ったのは、まぁ今日の自動車企画者、自動車技術者からすればやむを得ない。

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それはそれとして、次に問題になるのは、クルマの下半身となる車室フロア面から前後のサイドメンバーにかけて、アルミ合金押出材を主体にかなり直線的、平面構成の骨格を組んだこと。おそらくどこかアルミメーカーとの共同開発かと思われるが(今日、車両製作者が素材を接合・組み上げから走行、さらに解体に至るまでを”使いこなして”骨格設計を自分たちだけでまとめられるカーメーカーはないだろう)、アルミ合金で鋼と同等の十分な破壊強度を達成しつつ、すなわちキャビンと前後の衝突骨格を成立させ、しかも素材の入手性とコストも満足しつつ、空間利用効率の良い骨格レイアウトを構築するのは困難きわまりない。しかも同じ破壊強度を達成するとアルミ合金の、それも大きめの角断面押出材を主材にして、それでタイヤからの入力を受け止める構造にすると、どうしても剛性が上がりすぎ、良い意味での「しなやかさ」に欠ける。これは従前のアルミ骨格乗用車、スポーツカーのほとんどに共通する特質。このクルマも、前後のサスペンションをインホイール型ダブル・ウィッシュボーンとして、それを上下に細長い角断面押出材の上下辺にピボットするという、一見、素材利用効率の高い設計をしたことで、逆にタイヤからサスペンション・リンク、そのピボットへと伝えられる様々な入力、とくに超扁平タイヤの路面衝撃などをきれいに受け止め、受け流すことも難しいレイアウトになっている。それは脚の感触の中の様々な部分に出てしまっている。

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しかし、この車が第一作で、ここから派生車種をいくつか考えると言うことであれば、このレイアウトもうなづけないものではない。しかしここから異なるキャラクターの着せ替え人形を作るとしても、例えばオープンをバリエーションに加える、ぐらいの展開しか難しかろうと思われる。

とはいえ、最新の少量生産車としては「アルミです」というだけで、モノを知らない一般人に何となく凝ったものに感じさせる効果もあり、価格帯をある程度高く設定する製品としてはやはり「鉄」では安っぽいし、そして企画者・設計者も「やってみたい」という漠とした思いがあったのではないかと推察される。まぁ、ロータス系の、最初はライトウェイト・コンパクトな「現代のセブン」として作ったはずのエリーゼの主骨格を、エンジンも車両全体も大型化、高性能化するにも関わらず、基本から見直すこともせずに弄り回しているやり方よりは、はるかにきちんと組んであるし、鋼板プレス・溶接構造を素材置換しただけのNSX、360モデナ以降のミッドクラス・フェラーリなどよりはマジメな取り組みを見せる。