Posted 2 Jul, 2020

Porsche 911(992) Carrera S (8DCT)

ドライビング・モードとその選択

走行モードは「ノーマル」を軸に、パワーパッケージの反応を穏やかにする方へ「ウェット」、逆に元気が良くなる方へ「スポーツ」、さらに「スポーツ+」、そしてさらに「個別」の5モードをそろえていて、ステアリングホイール上のロータリースイッチで、あるいはセンターディスプレイのタッチパネルで、さらにその下の上下シーソースイッチで選択できる。センターパネル左側にはダンパーだけの切り替えスイッチも並ぶ。「ノーマル」から「スポーツ」への切り替えでは、アクセルペダルの小さな動きに対するレスポンスが若干良く(早く)なる、つまり右足がペダルを押す動きに対して燃料噴射のタイミング、そこで現れるトルク・レスポンスをわずかに早める方向に変化するように感じられる。あまりはっきりした、例えばゴルフRや、BMWの6気筒ディーゼル系のような変化ではない。最初に切り替えを試みた時、少し負荷をかけた状態からアクセル踏み込み量をそこで止めたままスイッチングしたところ、一瞬クルマを押す動きが混じり、アクセルペダル・ストロークとスロットルバルブ開度の関係を変えている(日本車によくある、意味のない切り替え)のかなと思ったのだが、さらに確認したところ、排気経路の切り替え、すなわち背圧を減らしたことによる軽いトルク増加であった。付け加えるなら、センターディスプレイに「車両設定」パネルを表示させると、この排気モード切り替えのタッチボタンも現れる。

この2つのモードの変化幅としてはむしろシフトプログラムのほうが大きく、車速とアクセル踏み込み量の関係の中で「スポーツ」ではほぼどこでも1速、状況によっては2速下の変速段を使うことで、駆動力の強まりを作っている。このモードでのシフトプログラムは、エンジン回転速度の下限として1800rpmを保持、というのが基本則。幹線道路で車の流れに合わせて発進加速する時などは、2500rpmまで回転が上がったところでシフトアップ、1800rpmに、というリズムで2速、3速…と自動シフトが続く。もちろんステアリングホイール裏のシフトパドルの操作によってマニュアルでアップシフトすることは可能だが、しばらくすると定石どおり再び1、2速低いギアで走るモードに自動復帰してしまう。例えばVWは、シフトプログラムの「ノーマル」と「スポーツ」がセレクトレバーを引く操作でも可能で、走行モード切り替えで「スポーツ」を選択、シフトプログラムが低ギア側になっても、セレクトレバー1回操作でノーマルモードに切り替え、そのままクルマをとめてイグニッションオフ、再スタートしてもその設定組み合わせが保持される。私個人としては、エンジンレスポンスは速く、無駄に回転を上げずに、つまり駆動力変動を滑らかにして走る、というパターンを日常的に使うので、このVWスタイルが好ましい。

「スポーツ+」モードにすると、シフトプログラムがさらに低速段側に切り替わり、エンジンをレブリミットまで回すパターンに移行することと、ダンパーがスポーツモードへと切り替わる。このモードはエンジン音が、使用回転領域が高くなることと合わせて、いっそう迫力のある、音圧も大きなものになるのに加えて、ダンパーの初期動が締められてタイヤの路面の細かな凹凸でも接地面内の面圧変動も大きくなり、ということは十分に良い平滑な路面で、強い運動によってタイヤに荷重をしっかりかけるような走行条件、すなわち中高速コーナーが続くサーキット系コース専用と考えた方がよさそうだ。

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今回の試乗車は、黄色いブレーキキャリパー、すなわちPCCB(カーボン・セラミック素材のディスクローターとそれに対応するパッド)を装着しているが、RHDといえども、そのブレーキペダルのタッチ、その中でパットとディスクの摩擦力コントロール、そして踏力による減速のコントロールについてはさすがにほぼ(今回走れた範囲では)ノー・コンプレインであった。このあたりはさすがにそんじょそこらの「高性能スポーティーカー」とは一線を画す存在ではある。

ということで、今、新車でこうしたキャラクター、人間にタイトにフィットする空間、スタイリング・アイコンなどなどの意味で1台を選べと言われたら、やはりここに落ち着かざるをえないかな、という思いで受け止めた味見ではあった。

ただその中で、個人的には心浮き立つところがあまりない、とも記さざるをえない。比較的近いキャラクター、プロポーション、アイコン的存在感を持つ中で「ドライビングと言うスポーツ」を日々さまざまに実感できるクルマ、という条件で見渡した時、私としては、アルピーヌの方を強く押すところではある。

※今回の試乗車両のタイヤは、Goodyear Eagle F1。高速道路、一般道のミックスで、256.1km 27.9L

WORD : 両角岳彦