Posted 31 May, 2020

DS 3 CROSSBACK

サスペンションの基本設計~ライド・“コンフォート”

と、最初にコンプレインを述べたが、走り込み、対話を進めるほどに、クルマの成り立ちにおける基本的な素性はなかなか良いものだと感じてきた。その感触を生む技術要件にまで思いを進めると、今日、このサイズのクルマに求められるものを様々な領域、様々な角度から考え、そこに必要な基本を押さえて構築していることが伝わってくる。

何しろタイヤが大きすぎるのだが、それゆえに生ずる現象を少し脇に置いてクルマの動きを観察すると、まず何よりも前後のストロークの深さとその伸縮のリズムが良い。脚のストロークが十分に取った設計をした上で、それを使って伸縮している時の柔らかさとしなやかさがなかなかに良いのである。

image

タイヤの素性にも助けられて、サスペンションのストロークは柔らかくおっとりと出て、その先で少し深いところまで動いてからしなやかに戻ってくる。その先の収まりもちょっとのんびりと揺れが残りつつ、きれいに収束する。スピードがある程度上がると、小さなうねりのような路面のアンジュレーションに対しても、もちろんもっと大きなうねりではさらにそうなるのだが、最初はタイヤのたわみが柔らかく出て、その先でクルマ全体がアンジュレーションの方向に上下動を起こしつつ脚がスムーズに動き出し、その動きが少し深く入ってから戻って来つつ、少しおっとりとおさまって行く、と言うリズムである。

ロール剛性も適度にソフトな設定だと感じられる。昔のシトロエンほどではないが、旋回の中で起こるロールは求心加速度の増加に対してけっこう深い。しかしロールが始まるところからのロール速度、そしてその動きが収まるタイミングとポイントがちょうどいいので、乗って、走らせている側がロールを意識してコントロールしてやる必要がないのがいいし、走らせるのが楽。

image

さすがにフロントは、主ばねレートをそうは落とすことができず、またすべきでなく、一般の小型FF車と同等のばねレートか、若干柔らかいかな、という感触のばね上共振周波数。とはいえ日本の同様サイズのクルマ群よりは硬さがなく、脚からの入力を受ける車体骨格も格段にしっかりしている。その中で最初に沈み始め~縮みの動きなどがうまく出ている。

そのフロントとの比較において、リアの方が明らかに一般的な(ここでは日本だけでなく世界レベルの比較)Bセグメント車両に比べておっとりとした揺れで、ばね上共振周波数は1.5Hzか、それよりも若干低いように感じられる。これは時間軸の中で揺れをカウントしてみた簡易な評価だが、まぁ当たらずとも遠からず、だろう。緩やかな揺れのリズム、その脚の伸び縮みの動きの中でちょっとおっとり動く感触が現れるあたりで既に減衰が顔を出し、ふわりとした揺れなのだがその中から収まりを作っていくあたり、最近のシトロエン流だと言える。

改めて観察すると、一般的な舗装路面での上下揺れから、大きなうねりを越えた時の、車体全体が上下にバウンスするような揺れまで、車体全体としてのピッチングも良く抑えられている。いわゆる「フラット感」がちゃんと出ている。ここはいうまでもなく、前後の主ばねレートの設定から出発する、足まわりのセットアップの出発点である。

image

このリアのストロークと、後にまた述べる旋回時のリア側の動きなどから見て、ちゃんとした素性を設計段階から仕込んであるものと思われ、床下を覗いてみるとやはりトレーリングアームの車体側ピポットが比較的高い位置まで持ち上げてある。そしてサイドシル~フロアのある程度の断面を持つ床骨格の中に下から少しめり込むような位置に置かれている。もちろんこうでなくては。

ここでもう一言。路面凹凸をタイヤが踏んだ「当たり」の瞬間、そのショックや突き上げは少し硬いけれども、そこから脚が動き出したところからはストロークが柔らかく動き、深く入ってしなやか、という脚の伸縮と、それに対して上屋も緩やかに揺れつつフラット、という揺れのリズム、乗り心地の「味」こそが、かつてのシトロエン流。ここへ来て、このDS3CBもそうであるように、それが別のメカニズム、ひと味違うシンプルな感触で“復活”しようとしている。

シトロエンのハイドロニューマチック・クッションシステム(気体ばね+高圧油圧系による減衰と4輪関連車高制御)は、ただただ柔らかくて、車体がふんわり揺れる…という安直なイメージが日本では伝播しているが、当時から乗ってきた人間としては「それは間違い」。ここでもう一度そこを念押ししておきたいと思う。サスペンション機構として、またミシュランの往時の細身スチールベルト・ラジアルタイヤを履いて、路面凹凸を踏んだ感触ははっきり伝わる。硬めだがすっきり。その先の上下揺れのリズムに独特のゆったり感があり、車体側はピッチングをほとんど意識させず、上下動を止めに行く締めつけ感もないままに、筋肉の伸縮のような自然なリズムでいつの間にか揺れが消える。とりわけうねり系の路面凹凸を越えてゆく中で、ふつうの金属ばねとは確かに異質の、反発感の薄い脚の伸縮・自然の水面に起こる孤立波のような音楽的リズムの揺れが少し長周期で現れ、余韻を残すように消える。ここがハイドロニューマチック・クッションならではの味わいなのである。